【臨床化学】酵素の臨床的意義をわかりやすく解説【AST, ALT, γ-GT, ChE, LD, CK, ALP, AMY】

臨床化学

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国試かけこみ寺です!

臨床化学のデータの読み方と病態についてシリーズ化して記事を書いております!

臨床化学は多くの人が難しいと感じる科目ですが、丸暗記だけで対応することはかなり難しいです

そのため、なぜこの病気でこの項目が上がるのか・下がるのか、など一度は理由を知っておくと、いざ暗記するときも頭に残りやすくなります

今回は、特に重要な8種の酵素

AST, ALT, γ-GT, ChE, LD, CK, ALP, AMY

について、解説をしていきたいと思います!

 

なお、酵素は測定原理が非常に重要ですが、原理は他の記事でまとめたいと思いますので今回は臨床的意義を中心に解説していきます!

※ あくまで国家試験における知識であり、実際の検査値を自己判断することはしてはいけません

 

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はじめに

酵素の基準値について、国家試験レベルでは覚える優先度は低めとしてOKです

そのため本記事では、基準範囲は省略します

病院実習などに備えて覚えておくべき数値としては、AST, ALT, γ-GT これら肝機能で着目する酵素については 100を越えると高い、500を越えてくると異常高値とざっくり覚えてしまうとよいでしょう

他の酵素は500以上だと高い、というのをベースにしておくと良いでしょう

(※本当にざっくりとした基準ですので鵜呑みにしすぎないようお願いします)

 

ちなみに酵素の国際単位は U/L(ユニットパーリットル) です

1U とは1分間で1μmolの基質を変化できる酵素量 です

1U/L は血清1L中に存在する、1分間で1μmolの基質を変化できる酵素量 を表しています

いまいちピンとこない単位ですが、国家試験では計算問題などが出るので、それはまたその時覚えましょう

  

アイソザイムについて

アイソザイムとは、同じ反応をする酵素であるが、由来する組織・分子量・等電点などが異なる酵素のことです

生体内での役割は同じ反応を担っていても、由来する組織が違ったりします

これは病態を把握するのに非常に役立っていて、アイソザイムを検査することで、どの臓器に損傷があるかなどを調べることができます

こちらも国家試験での重要ポイントを解説していきたいと思います

 

それではいってみましょう!

AST, ALT

AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ

ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ

ASTとALTはセットでよく出てきますが、違いをしっかり区別しておくことが重要です

 

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

ASTとALTはいずれも肝機能の指標として用いられますが

・ALTの方が肝特異性が高いです

ASTももちろん肝臓に多く含まれていますが、赤血球・心臓・骨格筋・腎臓など他の組織にも多く含まれており、ASTは溶血・心筋梗塞などでも大きく上昇します ※ALTも他組織に含まれているが影響は少ない

覚え方
※AST:Sからサ行の音→せっけっきゅう、しんぞう。どうしても覚えられない人はこれでいきましょう。ALT:肝臓は英語でLiverのL、と覚えるとよいかも?)

ASTのように、細胞や赤血球内に特に多く含まれ、細胞破壊や溶血の影響で上昇する酵素を逸脱酵素と言います(逸脱酵素は他に、LD・CKもあります)

つまり、ASTの上昇があったとしても、肝疾患だけでなく、心筋梗塞や筋疾患、溶血なども疑うべきということになります

そして、実際の診断では他の検査値、腹部エコーやMRIなども行って総合的に病態をつかんでいく、という流れになるわけですね

このように、病態を知るためには、他に関連する検査値も併せて判断することが重要です

 

アイソザイム

ASTとALTには

  • 細胞質型(cytosol)
  • ミトコンドリア型(mitocondria)

が存在し、それぞれc-AST, m-ASTなどと表記します

AST・ALTはアイソザイムについてはそんなに出ることはありませんが

この2種類があることは覚えておきましょう

もっと詳しく知りたい
意義としてはm-ASTが重要で、ミトコンドリア型は、劇症肝炎、アルコール性肝障害、心筋虚血など重篤な病態で上昇します。細胞内部のミトコンドリアが破壊されるほど損傷が激しいということです。

 

国家試験重要ポイント

他に、いくつか国家試験の選択肢によく出てくる情報をまとめます

・ALTの方が半減期が長い

半減期の覚え方
ALT:Long、AST:Shortで覚えよう

 

・補酵素としてビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサルリン酸)が必要

補酵素とは酵素の活性に必要な因子で、ビタミンB群にその役割を持つものが多いです

日本臨床化学会(JSCC)による測定では試薬にビタミンB6は含まれていません

このため、ビタミンB6欠乏患者や、透析によって水溶性ビタミンが流れ出ている患者ではAST, ALT活性は低値となります

 

γ-GT

γ-GT:ガンマグルタミルトランスフェラーゼ

γ-GTと言えば、飲酒で増加する肝機能指標というイメージでOKですが、実は最も存在量が多いのは腎臓、次が膵臓です

γ-GT もっと詳しく
実際には血中のγ-GT活性は肝臓由来がほとんどです。腎臓ではすぐに尿中に排泄されるためであり、膵臓由来のものは胆道閉塞によって特に増加します。

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

飲酒による影響が特に大きい

・肝機能も反映するが、胆道系の影響も大きい

・すなわち、胆汁うっ滞、胆道閉塞などの疾患でも上昇

 

ChE

ChE:コリンエステラーゼ

コリンエステラーゼは肝臓で作られる酵素であり、肝機能検査と同時に、アルブミンのような栄養評価蛋白でもあります

↓関連記事です

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

肝機能の低下により、ChEは低下する(アルブミンも低下)

AST, ALT, γ-GTなどは肝傷害によって増加する酵素ですが、ChEは低下するというのが重要です

 

・有機リン中毒でChEは低下

具体的には、農薬や殺虫剤、サリンによる中毒です(緊急性が高い)

有機リン・コリン低下 (音で覚えましょう)

 

LD

LD:乳酸デヒドロゲナーゼ(=乳酸脱水素酵素)

国試でも出題頻度は高く、アイソザイムの意義も大きい酵素です

詳しい原理は今回は省略しますが

乳酸 ↔ ピルビン酸 の両変換を行う酵素です

 

特に重要なのはLDアイソザイムについてです

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

アイソザイム

・LDは2種類のサブユニットからなる4量体の酵素であり、アイソザイムは5種類ある

サブユニットというのは、蛋白質を構成するパーツのことです。LDの場合は、HとMというパーツを4つ組み合わせてできているので4量体です。LD1(H4)、LD2(H3M1)、LD3(H2M2)、LD4(H1M3)、LD5(M4)というように、5種類あります。

サブユニットのHはハート=心臓、Mはマッスル=筋肉を表します

臨床的意義として特に重要なのは、LD1とLD5です

LD1:心臓と赤血球に多い

LD5:肝臓と骨格筋に多い

この2点は必ず覚えましょう

すなわち、病態としては

LD1の上昇:心筋梗塞や溶血(LD2にも増加が見られる)

LD5の上昇:急性肝炎、筋細胞の破壊

などが重要な点として挙げられます

他に、LD2,3は白血病などでの上昇があります

 

国家試験重要ポイント

・LDアイソザイム電気泳動の泳動順

(+)1, 2, 3, 4, 5(-)

※存在量は、2>1>3>4≒5の順

半減期は1が最も長く、順に2,3,4,5で短くなる

・溶血検体でLD1,2上昇(CK, ASTと同様に逸脱酵素)

4,5型は冷蔵で不安定:冷蔵検体で4,5活性は低下します

 

CK

CK:クレアチンキナーゼ

キナーゼとはリン酸化酵素です

すなわちCKの役割はクレアチンにリン酸をつけること(取ることもできます)

クレアチンリン酸は筋肉の高エネルギー化合物です

 

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

酵素活性にチオール基(SH基)が必要な、SH酵素である(測定試薬にはN-アセチルシステインという活性化剤が含まれる)

・筋肉に多く存在することから、心筋梗塞・筋細胞が破壊される疾患(筋ジストロフィー、筋炎など)で上昇します

・筋肉量で差が出るため、一般的に男性>女性となる性差があります

・心筋と骨格筋の病態を見分けるには、アイソザイムが有用です

アイソザイム 国家試験重要ポイント

・CKは2種類のサブユニットからなる2量体の酵素であり、アイソザイムは3種類ある

CKのサブユニットはM(マッスル=骨格筋)とB(ブレイン=脳)の2つがあり、2量体なのでCK-MM, CK-MB, CK-BBの3種類ができます。MMは骨格筋、MBは心筋に多く存在します。(BBは脳ですが、臨床的にはまず見かけません)

・特に心筋梗塞における、CK-MBの上昇が国家試験で狙われやすい

・激しい運動によって、CK-MMが一過性に上昇することもある

ALP

ALP:アルカリホスファターゼ

その名の通り、アルカリ性で活性を示すホスファターゼ

ホスファターゼとはリン酸化合物(リン酸モノエステル)を加水分解する酵素です

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

活性中心にZn2+を有する金属酵素(ゆえに、EDTA血漿では測定できない)

活性化には、Mg2+ か Mn2+ が必要

活性中心は、活性部位とも言います。活性中心の金属は酵素の中に組み込まれ、パーツの一部として機能します。活性化に必要な、Mg2+などは試薬として添加すればOK。

ALPもアイソザイムによって由来臓器が異なるため、アイソザイムの判別が重要です

アイソザイム 国家試験重要ポイント

ALPには6種類のアイソザイムがありますが6は特殊なため、実質5つです。それほど難しくはなく、由来臓器さえ覚えてしまえばOKです。

  1. 肝型
  2. 肝型
  3. 骨型
  4. 胎盤型 (耐熱性がある)
  5. 小腸型
  6. ALP結合性免疫グロブリン

かん・かん・こつ・たい・しょうちょう 声に出して繰り返し覚えてしまいましょう

6は特殊で潰瘍性大腸炎患者に見られることがあります(国試レベルでは覚えなくても可)

 

ALPアイソザイムの増加する病態は、それぞれの由来を考えればOK

ALP1とALP2→肝・胆道系疾患

ALP3骨代謝に関する病態=甲状腺機能亢進(カルシトニン増)や副甲状腺機能亢進(パラトルモン増)、骨腫瘍、慢性腎不全(によってCaとPのバランス崩れるため)。あとは、骨代謝が盛んな小児で高値。

ALP4妊娠(病気ではないが、国試に結構出る)

ALP5→血液型がB型、O型で分泌型(Se)の人は、食後に高値

ALPについての補足
ALPの測定法が2020年より、JSCC法からIFCC法へ移行しました。JSCCは日本基準、IFCCは世界基準と思えばOKです。JSCC法には、ALP5小腸型が高めに測定されるという問題点があり、食後の分泌型B,Oの人では特に影響を大きく受けていました。そのため、影響のより少ないIFCCへと移行されたというわけです。ちなみに、これによってALPの基準範囲は従来の約3分の1となったため、注意が必要です。

 

ALPの重要ポイントをまとめると

  • 肝疾患で上昇するが、他肝機能検査との併用が必要
  • 骨代謝の影響を大きく受ける→骨成長の盛んな小児で高値となる
  • 胎盤型は妊娠後期に上昇する
  • 小腸型はB,Oの分泌型で食後高値となる

 

ALPは肝臓・骨・胎盤・小腸とバラエティに富んだアイソザイムを持っているので、病態と結びつけるのが難しいですが、由来臓器さえ覚えておけば関連付けやすいでしょう

 

AMY

AMY:アミラーゼ

言わずと知れた消化酵素です、ご存知の通り唾液と膵液に含まれており、アイソザイムも2つです

チェックポイント ●重要度が高いものにマーカー

・活性中心にCa2+、活性化にはClが必要

活性中心がカルシウムなので、EDTAではキレートされて活性低値となる

アイソザイム

・膵AMY(P-AMY) と 唾液AMY(S-AMY)の2種が存在

・存在比は、血清中ではP:S=4:6、尿中ではP:S=7:3程度

・膵炎・膵癌でP型が増加する

ゆえに、膵炎での尿中AMY測定が有用である

他、耳下腺炎、アミラーゼ産生腫瘍などではS型が増加します

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関連記事 

以上、血液検査データにおける、酵素の臨床的意義をまとめました

酵素が難しいのは、測定原理の方だと思いますのでそちらは、別に記事をまとめていきたいと思っています!

ここまで読んで頂きありがとうございます。勉強おつかれさまでした!

  

↓測定原理のとっかかりとして、こちらの記事からおすすめします

 

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